社会生活において、自身の感情をコントロールするというのは非常に大切なこと。特に
「怒り」の感情を抑えなければならない、という場面にはどなたでも遭遇したことがある
はずです。特に介護施設や老人ホームなどで働く際は、人間関係で悩む人もたくさんいら
っしゃると思います。


理不尽なことが起きたときや思うように物事が運ばないときなど、イライラしてしまうの
は人間であれば当然の感情ですが、感情をコントロールするのは時には難しいものです。
介護職においてもそれは例外ではありません。怒りという感情は介護においてとても身近
な感情と言えるでしょう。この感情をコントロールしてうまく付き合うためには、どのよ
うなことが必要なのでしょうか。先日、名古屋市内で開催された研修で学んだ内容に少し
紹介したいと思います。


■「怒り」の正体
怒りの感情は自分の身を守るためだと考えられています。例えば、友人や家族・同僚にミ
スを指摘したら相手が怒りだしてしまったという経験はないでしょうか。これは相手が
「ミスをしてしまった」という事実をまともに受け入れれば気分が落ち込んでしまうとい
う、ことから身を守るために怒りの感情をあらわにしているのです。
その怒りはより身近な相手に向けられがちです。電車で知らない人に足を踏まれても、
少々イラッとはするでしょうが声を荒げたりすることはないですよね。しかしそれが家族
だったらどうでしょう。「痛いじゃないか!」とついつい怒りをぶつけてしまうという方
は非常に多いのです。
そして、部下が上司を怒鳴るようなことはあまりないですよね。怒りは上から下・強から
弱へ向けられやすいという傾向にあり、いま社会問題となっているパワハラやモンスター
カスタマーの一因でもあります。
これが介護現場の場合、職場やプライベートでのストレスやイライラを、弱い立場の利用
者へ無意識にぶつけてしまう・・・不適切なケアや、最悪の場合利用者への虐待というこ
とにつながりかねません。


■「怒り」をコントロールする
かといって私たち人間は、怒らないようにしよう!というのは100%無理でしょう。積み
重なったストレスがイライラにつながることが多々ありますし、ストレスを全く感じない
生活というのも非常に難しいものです。
怒りの感情を捨てることはできません。であれば、自分の心の中に生まれた「怒」の感情
をコントロールしていけば良い、と考えを変えてみましょう。


■アンガーマネジメントとは
「アンガーマネジメント」という言葉を聞いたことがありますか?怒りの感情を制御し、
上手に付き合っていこうという心理トレーニングです。
怒りの感情に飲まれることや怒りにまかせて行動してしまったことへの後悔を防ぎ、必要
な時には正しく怒りを表現できるようにすることを目的としています。
怒りに支配されて人や自分の心身を傷つけることがないよう、アンガーマネジメントを身
に着けましょう。


■アンガーマネジメント実践法
怒りがピークに達するのは約6 秒だと言われています。カチン!ときてから怒りに任せた
行動に出てしまうまでの時間ですね。怒りが収まることはないでしょうが、冷静さを取り
戻し衝動的な行動を防ぐことはできるはずです。
その6 秒をやり過ごすために、簡単にできるアンガーマネジメント実践法をご紹介します。
①数を数える
カチン!ときたらまずは、心の中で「1,2,3 ・・・」と数を数えるクセをつけましょう。
数えることに気が向いているうちに怒りから気をそらすことができる場合もあります。
②深呼吸する
怒りを感じた瞬間に、5 秒ほどかけてゆっくりと鼻から息を吸い込み、また5 秒ほどかけ
て口からゆっくりと吐き出す。これを2~3 回繰り返す。酸素を取り入れると頭がスッキリ
して、冷静さを取り戻せると言われています。
③他の動作をする
手をグーパー・グーパーと繰り返すグーパー運動や、水を飲むなど他の行動で気分を紛ら
わすことです。怒りとは関係ない別の行動を取ることで、怒りから意識を逸らしやすくな
ります。
③その場を離れる
可能であれば、目の前の「怒りの対象」から遠ざかること。トイレや洗面台など別の場所
に行ってもいいですし、とりあえず階段やエレベーターで別の階へ行くという方もいるよ
うです。怒りの場から一旦遠ざかり、気分転換を図ってみましょう。


■まとめ
怒りの根源は価値観にあると言われています。自分が当たり前だと思っていることでも、
利用者にとっては困難だったり不可能だったりすることがありますよね。そんな価値観の
ズレが怒りの感情を生んでしまうのです。
社会にはざまざまな価値観が存在します。アンガーマネジメントの考え方のひとつに「違
う価値観を受け入れる」ことがあります。怒りとうまく付き合うようになれれば「仕方な
いな」「こういうこともあるんだな」と素直に考えることができ、イライラというストレ
スから解放されるでしょう。
どんなとき自分はイライラするかな?と自分の怒りを分析してみるのも非常に効果的です。
怒りとの付き合い方が分かれば心にも余裕が持てますし、いま以上に快適なケアを利用者
に提供していけるようになるのではないでしょうか。

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